弁護士ブログ/アメリカ合衆国憲法つづき 違憲立法審査

引き続き、アメリカ合衆国憲法に関連するお話です。

日本の法体系は、明治維新後の歴史の中で先行していたドイツ法やらアメリカ法やらの影響が色々混じりあって出来てきたものですが、戦後に作られた憲法は特にアメリカ法の影響を強く受けています。日本が採用している付随的違憲立法審査もその1つです。

 

日本の裁判所に違憲審査、つまり法律や行政活動が憲法に違反していないかを判断して貰うためには、単に法律が憲法に反していると主張するだけでは足りません。何かしらの法的な請求を行う裁判の中で、法律の違憲性について判断して貰うことになります。たとえば、国の違憲違法な行為によって原告が損害を受けたと主張して、国家賠償を請求し、国の行為の違法性判断として違憲立法審査がなされることがあります。

なぜ、直接裁判所に違憲判断をしてもらうことは出来ないのでしょうか。

 

1803年2月、アメリカ連邦最高裁判所において、申立人をウィリアム・マーベリー、相手方を国務長官ジェームズ・マディソンとする裁判が行われました。

この事件の経緯自体も、現在まで続く裁判所の与野党の勢力争いの一端として興味深いのですが、憲法学上重要な点は、この判決が世界で初めて違憲立法審査を確立した判決であることです。

日本国憲法とは異なり、アメリカ合衆国憲法には違憲立法審査を定めた明文はありませんでしたし、憲法に反する法律は無効であるとする考え方も、200年前のこの当時は一般的に存在するものではありません。このため、マーシャル判事は、自ら違憲立法審査を認める理由を組み立てる必要がありました。

 

我々法実務家にとってはお決まりのフレーズですが、裁判所の職務は、証拠によって認定された事実に対し法を適用し、判決を出すことです。

マーシャル判事は、「法を適用」するという点に着目しました。

この事件で、原告のウィリアム・マーベリーは、下級裁判所を飛ばし、直接連邦最高裁に訴訟を提起しています。これは、1789年に制定された裁判所法に従ってなされたものです。一方、合衆国憲法第3章第2条2項は「大使その他の外交使節および領事にかかわるすべての事件、ならびに州が当事者であるすべての事件については、最高裁判所は、第一審管轄権を有する。」とされており、外国の外交官でも州でもないウィリアム・マーベリーと、国務長官のあいだの訴訟において、連邦最高裁の第1審管轄を認めていません。

連邦法と合衆国憲法、矛盾する2つの法律がある以上、判決を出すためには裁判所はどちらの法律を適用するか選ばなければなりません。そして、どちらかを選ぶとすれば、より上位の法である、合衆国憲法を選ぶべきである、とマーシャル判事は述べました。

見事にも、判決を出すという裁判所に当然すべき職務の内容から、裁判官が国民の代表である議会の制定した法律を無効とするための理屈を組み立ててのけたのです。

このマーシャル判事の理屈により、憲法に反する法律は無効とする裁判上の取扱いが確立しました。

 

マーシャル判事の確立した違憲立法審査権は、その後、日本国憲法によって日本にも導入されました。

違憲立法審査は判決を出すために必要だからこそなされるもの、このため、法律の違憲性それ自体を裁判所に持ち込むことはできないという制度になったのです。


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