1 皆様が経営する会社に、ある日突然、元従業員から、「不当解雇された、残業代が払われていない、上司からパワハラを受けていたので慰謝料を請求する」などといった内容証明郵便が届くなんてことが起きるかもしれません。一見すると、もっともらしい文章で弁護士などの専門家に頼んで作った文章ではないかなどと焦り、顧問弁護士に相談するなどといったことになるかもしれません。
2 昨今の生成AIの飛躍的な普及によって、弁護士などに頼まず、それなりの体裁の法律的書面が作成できる時代に入ってきているようです。
これまで、書面作成など弁護士に依頼すれば、一定の費用が掛かる、数十万円の請求をするのに弁護士に訴訟を依頼することは、費用対効果の面でペイしないといった理由で少額事件は、弁護士対応がなされない場合が多く、事件数も低調であったと思われます。
3 しかし、これからは生成AIで書面作成(内容証明だけでなく訴状、労働審判申立書を含む)が可能となり、費用対効果を考えることなく、本人が交渉や訴訟などをやることができてしまうかもしれません。
もちろん、裁判所では、訴訟等に先立って書類審査をしますので、的外れの申立はできないかもしれませんが、生成AIの精度が上がれば、訴訟が受け付けられることになります。現に、東京では、少額訴訟が増加傾向にあるようです。
4 こうなると、相手とされる会社としては、やむなく、弁護士に頼まざるを得なくなり、予想外の出費を強いられます。
このような事態に陥らないため、日頃の労務管理を適切に行う必要があります。
5 ところで、弁護士が作成したのではないかと思われるような書面を一般市民に提供するビジネスが許されるのでしょうか。
弁護士でない者が報酬目的で法律事務を扱うことは「非弁行為」として弁護士法で禁じられています。法律の専門家でない者が法律事務を扱えば、社会正義の実現が妨げられ、人権侵害の恐れも生じるからです。そうなると、生成AIを活用して企業活動を行う場合、どういう場合が「非弁行為」として許されないのかが問題となります。
本年8月、法務省から、法務業務のAI活用に関する新指針が示されました。これによると、①サービスの設計が訴訟や法的な交渉での利用を目指したものではないこと②訴訟や法的な交渉での利用に特化した機能がないこと③不適切な利用を回避する体制が整備されていることを前提として、文献のリサーチ、書面作成、経営判断の適法性確認、内部通報の調査、トラブルの内部調査、株主総会や取締役会の支援は認められています。
この指針自体、不明確さがあり、まだまだ改善の余地があるようです。また、非弁行為として現実に摘発することはかなり困難であると思います。




