1 退職代行サービスとは
一般に業者にお金を支払うことで、業者が本人に代わって、退職の意思を会社に伝えるサービスです。
①たとえば、新卒社員が、会社を辞めたい、これまで支払われていない残業代を請求したいという相談を受けた退職代行サービス(業者)が、本人に代わって会社に伝えたところ、会社側は、「辞める人に残業代など払わない」と言われた。業者は、「それは法律違反だ。残業代は○○になる」と主張し、話し合いの結果、残業代が支払われた。
②また、ある社員は、退職代行サービス(業者)に、契約期間の途中で会社を辞めたい、在職中に受けたパワハラの慰謝料を請求したいという相談をした。業者は、労働組合と提携しており、法律的な問題につき交渉になったら、提携先の労働組合が行うと言った。本人は、業者にお金を払って依頼した。業者が会社に本人に代わって伝えたところ、会社は、パワハラの事実を否定した。業者は、労働組合と交代し、労働組合が話し合いを行った結果、会社はパワハラを認め、慰謝料が払われることになった。
①の場合、残業代の請求は、労働基準法で認められた労働者の権利です。計算の仕方も含め法律的な問題があり、これらは弁護士以外の者がやってはいけない行為、つまり非弁行為となります。
②の場合、契約途中で会社を辞めること(雇用契約の解約)や、パワハラに基づく慰謝料などの損害賠償請求は、法律的な問題です。この事例では、業者は本人からお金を受け取って法律問題について、話し合いになったら提携先の労働組合が交渉を行うとしています。しかし、お金を受け取って法律問題の処理を他者(労働組合)へあっせんすることは非弁行為です。労働組合が交渉する場合であっても、当該組合の行為が非弁行為にならないとは限りません。
「退職代行サービスモームリ」の運営会社が、10月22日、警察の家宅捜索を受けました。非弁行為の疑いによる捜査です。警察もさすがに「もう無理」放置できないということだったのでしょう。
非弁行為がなぜ禁止されるかといえば、依頼者の正当な権利の実現ができなくなるおそれがあるからです。
ちなみに、退職代行サービス業者が、弁護士に勤務先との交渉を取り次ぐ見返りに弁護士から紹介料を取ることも禁止されています。弁護士が依頼者ではなく退職代行サービス業者の言いなりになる可能性がある、弁護士費用がその分高くなる危険性があるためです。
厚生労働省の調査では、退職代行サービスの利用率は、20代で5人に1人に近いそうです。2~3万円でたのめるのはお手軽感があるのかもしれませんが、直接弁護士にたのむのが解決の早道かもしれませんね。