法律コラム/トランス女性の女性トイレ使用-最高裁判例を読んでみる

7月11日になされた最高裁第三小法廷の判決がニュースになりました。戸籍上の性別を変更していないトランス女性による、職場の女性トイレの使用に関する国家賠償請求訴訟です。

全文は裁判所のウェブサイトに公開されていますが[1]、今回はこれを読んでみようと思います。以下、記載するページ数は、すべて裁判所ウェブサイトのPDFのページ数となります。

 

誰が判断したか

今回の判決は第三小法廷の判決です。最高裁は15人の裁判官で構成されており、全員が参加する大法廷と、各5人で構成される小法廷が3つあります。今回は3番目の小法廷による判決ということです。

新たな憲法判断や、最高裁がこれまで出した判決に反する判決を出す(判例変更)場合は、大法廷による判断が必要になるので、今回の判決は憲法問題に踏み込んだ判決や判例変更ではないことがわかります。

判決文の5頁目に「よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。なお、裁判官宇賀克也、同長嶺安政、同渡惠理子、同林道晴、同今崎幸彦の各補足意見がある。」との記載があります。反対する裁判官がいる場合は「反対意見がある」、判決に賛成するものの判決理由に反対する場合は「意見がある」と書かれます。今回は「補足意見」のみなので、判決理由も含めて、第三小法廷の5名の裁判官全員の意見が一致しているようです。

ちなみに、今回は5人の裁判官が参加していますが、諸事情により一部の裁判官が不参加となることもあります。例えば、現在第二小法廷には長官である戸倉三郎裁判官が所属しているため、長官を除いた裁判官4人での判決が多くなっています。

 

判決の内容

私は、判例を読むときは、特に

①裁判所がどのようなルールを定めたか

②ルールに基づいて判決を出すときにどんな事実に注目したか

に気を付けています。これをもとに、自分が取り扱っている事件について、裁判所がどのような判断をするか予想します。

これらの内容を見つけるときは、「これを本件についてみると、」という言葉を探します。だいたいこの直前に①が書いてあり、直後に②が書いてあります。今回は、4頁の4行目です。

 

先に結論から書いてしまうと、今回の最高裁判決をもとに、他の事件でどうなるかを予想することは、かなり難しいです。ルール部分を見てみましょう。

国家公務員法86条の規定による行政措置の要求に対する人事院の判定においては、広範にわたる職員の勤務条件について、一般国民及び関係者の公平並びに職員の能率の発揮及び増進という見地から、人事行政や職員の勤務等の実情に即した専門的な判断が求められるのであり(同法71条、87条)、その判断は人事院の裁量に委ねられているものと解される。したがって、上記判定は、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したと認められる場合に違法となると解するのが相当である。

トイレとも性同一障害とも書いてありません。もっと言ってしまえば、具体的な内容が見当たりません。つまり、性同一障害の診断を受けた人のトイレの使用については、具体的なルールがないので、それぞれの事件の具体的な内容を考慮して決めるほかありません。

 

これだけでは五里霧中ですので、今度は②に注目します。最高裁が考慮した事実と似たような事実があれば、似たような判断になりやすいと言えます。最高裁は5頁でまず、上告人の女性トイレ使用の必要性について、医師の診断を受けていることを前提に、不利益の存在を認めています。この点については比較的わかりやすく、戸籍変更未了であっても、医師による性同一性障害の診断がある場合には、配慮が必要であると言えるでしょう。

一方、雇用主である経済産業省側の都合については、なかなか読み方が難しいです。経済産業省側としても、説明会を開いたり意識調査を実施したりしており、女性側でも医師から性暴力の可能性が低い旨の診断を貰ってくるなど、いろいろな動きをしています。最高裁も「遅くとも本件判定時においては、」と述べており、単に性同一性障害の診断を受けたというだけで女性トイレの使用を認めなければならないという考え方ではないようです。結論としては「トラブルが生ずる」可能性や、「配慮をすべき他の職員」の有無を重視しているようですが、詳細な事情まで一致することはなかなか考えにくく、手探りの状況が続きそうです。

 

ただ、少なくとも医師による診断や、他の職員への配慮を前提としていることからすれば、この判決が前提としているのは利用者が限られる施設のトイレであり、商業施設や、市町村役所のような多くの住民の利用が想定される施設のトイレについては、先例にならないと言えるでしょう。今崎幸彦裁判官の補足意見でも、以下のように記載されています。

なお、本判決は、トイレを含め、不特定又は多数の人々の使用が想定されている公共施設の使用の在り方について触れるものではない。この問題は、機会を改めて議論されるべきである。

 

[1] https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=92191

 


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