従業員に配転、出向を命じるときの注意点は何ですか?

配転、出向は、従業員やその家族に大きな影響を与えます。高齢化社会での親の介護、子の学校の問題などを理由として、従業員が配転や出向を拒否するという事例も増えてきています。配転や出向等を従業員に命じる際には、どのような条件が必要でしょうか。

配転命令

配転とは、従業員の同一企業内での異動のことで、職務内容または勤務地が相当期間変更されるものをいいます。このうち、同一の勤務地(事業所内)での職種内容を変更するものを「配置転換」、勤務地の変更を伴うものを「転勤」と呼んでいます。かつては、使用者に人事権があるので自由に配転命令をなし得るとの考えがありましたが、現在では人事権も無制約でなく、使用者と労働者との合意によって認められるものと考えられています。配転が認められる条件はいかのとおりです。

① 個々の労働契約・就業規則等に配転命令の根拠があること

勤務地が限定される労働契約が締結されている場合は、その限定された勤務地内での配転命令しか発令できません。限定された場所以外に配転するには労働者の同意が必要です。また、採用時に労働者の従事すべき業務が限定されていると見るべき場合にも、一方的な配転命令はできず、労働者の同意が必要となります。

② 当該配転命令が法令等の強行法規に反しないこと

配転命令が実質的に組合活動を妨害する目的があり不当労働行為にあたるものや(労働組合法第7条)、当該従業員の思想・信条を理由とするもの(労働基準法第3条)は、法令違反となり、当該配転命令は無効となります。

③ 当該配転命令が権利濫用にあたらないこと

配転命令が配転命令権の範囲内であっても、権利濫用に当たる場合は、無効になります。判例(東亜ペイント事件・最判昭61.7.14労判477-6)によれば、権利濫用か否かについては、次のⅰ~ⅴまでの要素を総合的に勘案して判断すべきこととされています。

  • ⅰ 当該人員配置の変更を行う業務上の必要性の有無
  • ⅱ 人員選択の合理性
  • ⅲ 配転命令が不当な動機・目的(嫌がらせによる退職強要など)でなされているか否か
  • ⅳ 当該配転が労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものか否か
  • ⅴ その他上記に準じる特段の事情の有無(配転をめぐる経緯、配転の手続など)

出向(在籍出向)

出向とは、労働者の雇用先の企業(出向元)に在籍のまま、他の企業の事業所(出向先)で働く「在籍出向」と雇用先の企業から他の企業へ籍を移して働く「転籍」に分けられます。ここでは、まず、在籍出向の認められる条件について述べます。
出向も、上の配転命令で述べた①~③と基本的には同様の規制を受けます。ただし、出向に特有の事情に注意する必要があります。出向は配転と異なり、就労先が出向元から出向先に変わります。これは、法的には、出向元企業が、出向先企業に対し、労働者に対する「労務給付請求権」(働くことを求める権利)」を譲渡することを意味します。労働者への影響が大きいこともあって、民法上、労務給付請求権など使用者の権利を第三者に譲渡する場合は、労働者の承諾(同意)が必要であるとされています(民法625条)。この同意は、個別的な同意だけでなく、包括的な同意でもよいとする裁判例もおおくなってきています。ただし、包括的同意については、最高裁判所は、就業規則と労働協約に出向命令権を根拠づける規定があり、出向労働者の利益に配慮した出向規程(出向期間や出向中の地位、出向先での労働条件に関し、出向者の利益に配慮したルール)が設けられている事案で、企業は従業員の個別的同意なしに出向を命じることができると判断しています(最二小判平成15.4.18 新日本製鐵(日鐵運輸第2)事件 労判847号14頁)。包括的同意といっても、出向者の利益に配慮したルールも定められている場合であるということに注意が必要です。
次に、出向命令権の行使が権利濫用で無効になるのはいかなる場合かについては、労働契約法14条に規定があります。同法14条は、「使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする」と定めています。権利濫用か否かを判断する要素としては、配転の場合と類似性があります。
なお、出向期間中の労働関係については、基本的な労働契約関係は出向元にあると解されます。法的には、出向に伴い、出向元と出向する従業員の労働契約上の権利義務の一部が、出向先企業に譲渡されることになります。労働契約上の権利義務のどの部分が譲渡されるのかは、出向元と出向先の合意で定められることになります。一般に、労働時間に関する諸規定は、就労を命じる権限を持つ出向先に適用されると思われます、これに対して賃金に関する諸規定は、出向者への賃金の支払いに責任を持っている企業が出向元・出向先のいずれであるかを出向協定等に基づき判断したうえで、支払義務を有する側に適用されることになるでしょう。

転籍命令

転籍とは、従来の雇用先との労働契約を終了させ、新たに他企業との間に労働契約を締結して、当該他企業の業務に従事することになります。
よって、転籍は出向と異なって、労働者の個別的・具体的な同意が必要であることにほぼ異論はありません。